大阪高等裁判所 昭和42年(ネ)1657号 判決 1969年9月16日
控訴人 磯辺隆四郎
被控訴人 米沢初次郎
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人が訴外坂根善三郎に対する大阪法務局所属公証人西村初三作成第三九、八四七号公正証書の執行力ある正本に基き、昭和三九年五月一九日原判決末尾添附目録記載3、4、9、17、18、20、27、29、30、32、33、34、40ないし61の物件(但し、53の物件中「レ」とあるのを、「L」と訂正)に対し為した強制執行は、これを許さない。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。
控訴代理人は請求の原因として、
被控訴人は昭和三九年五月一九日訴外坂根善三郎に対する前記控訴の趣旨記載の債務名義に基く強制執行として、同記載の物件に対し差押をしたが、右物件は控訴人が前記訴外人に対する貸金を担保するために、昭和三八年四月三日譲渡担保の契約により同人から譲受け、占有改定の方法によりその引渡を受け、現に控訴人の所有に属するものであり、譲渡担保による所有権取得であつても第三者異議権の原因たりうることは勿論であるから、被控訴人に対し前記強制執行不許の裁判を求める。
と陳述し、(立証省略)被控訴代理人は答弁として控訴人主張の事実中、強制執行の点を認め、その余の部分を否認した。(立証省略)
理由
被控訴人が昭和三九年五月一九日訴外坂根善三郎に対する控訴人主張の債務名義に基く強制執行として、同主張の本件物件に対し差押をしたことは当事者間に争がない。
そうして控訴人がその主張のとおり前記訴外人に対する貸金(後記証拠によれば、元金三五〇万円及び利息、損害金)の担保として本件物件の所有権を譲受けたことは成立に争のない丙第一号証と証人坂根善三郎の証言により認めうるところであるが、他面において、右証拠によると、本件貸金債務の弁済期は昭和四〇年三月一〇日であつて、前記被控訴人の差押当時には右弁済期は未到来であつたこと、債権者たる控訴人は、右差押当時までに担保権実行のための引渡はいまだこれを受けていなかつたことが認められ、右認定に反する証拠はない。そして、右のような占有改定方法により目的物の占有の引渡を受けた譲渡担保(この点は控訴人の自認するところである)、即ち担保の目的による所有権移転の契約は、その段階では実質的に見るときは明らかに一種の担保権に外ならないものであつて、債務者に対する関係においては、所有権を有するといつても本来の所有権と同一の権利を行使し得ない制約を負うというのがその実体であるから、第三者に対する関係のみにおいて、所有権の名の下に右の実質を超えて本来の所有権と同一の権利内容を主張し、実現しようとすることは、場合により制約を受けることがあると解されるのも亦当然と言わねばならない。そして、第三者が右のような譲渡担保の目的物件につき強制執行を為し、又は担保権実行のための換価手続を行う場面においては、右所有権は真に内包する実質の限度においてその実現を許すを以て足り、即ち担保としての優先弁済を受ける効力(民事訴訟法第五六五条参照)以上に、本来の所有権と同じ様に、目的物に対する他人の権利行使を排除し、目的物の処分を独占する効果は、これを是認し得ないものと解するを相当とする。
してみると、右譲渡担保により取得した所有権を理由として、本件強制執行の排除を求める控訴人の本訴請求は失当として棄却を免れず、これと同旨に出でた原判決は相当で、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用につき民事訴訟法第九五条第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 宮川種一郎 竹内貞次 畑郁夫)